インド政府の新型コロナ接触追跡アプリ「Aarogya Setu」、1ヵ月で8000万ダウンロードを突破

インド政府が2020年4月2日から無料配布を開始した新型コロナウイルス接触追跡アプリ「Aarogya Setu」(※)が、1ヵ月弱で8000万ダウンロードを突破したことが電子情報技術省(MeitY)の発表で明らかになった。

※ ヒンディー語で“健康への架け橋”の意

「Aarogya Setu」はリリース後わずか3日間で500万、2週間弱で5000万ダウンロードを記録。同時にインドの「Google Play」ダウンロードランキングの常連であるショート動画アプリ「TikTok」、モバイル決済サービス「Google Pay」、モバイルブラウザ「UC Browser」等を追い抜くという快挙を達成した(※)。また、iOS端末向け「App Store」でも人気アプリにランクインする等、存在感は高まり続けている。

※ 累計ではなく、期間を限定したダウンロード数

注目すべきは5000万ダウンロードを突破した時点では、政府は「Aarogya Setu」の使用を推奨こそしていたものの、国民に使用を義務付けていたわけではないことだ(※)。にも関わらず、ダウンロード数がこれほど伸びたのは、政府による業界団体や企業への働きかけ、積極的なプロモーションに加え、政府と国民が新型コロナとの戦いにおいてはある程度団結できているからに他ならない。実際に、インドの通信社「IANS」が4月23日に発表した世論調査では、「政府の新型コロナ対策を評価する」と答えた人々の割合は93.5%に達し、驚異的な数値をマークした。

※ 中央政府は4月29日、職員に「Aarogya Setu」のダウンロードと使用を義務付けた。職員は登庁前にアプリで最新状況を確認し、“安全”または“危険度が低い”と表示されている場合のみ登庁が許可される

モディ首相も会見や自身のTwitter等で「Aarogya Setu」の使用を度々訴えかけている。画像は首相のTwitterより
 
様々な役割を担う「Aarogya Setu」

インド政府が「Aarogya Setu」の開発にあたって参考にしたのは、シンガポール政府が3月20日にリリースした「TraceTogether」(※)だ。同アプリを皮切りに、各国・地域の政府や企業が類似アプリの開発に乗り出しており、現在では少なくとも20ヵ国以上で開発・リリースされている。

※ インド政府が参考にしたのはあくまでアイディアレベルで、両者の技術的アプローチやプライバシー保護等は異なる。「Aarogya Setu」は「TraceTogether」と異なり、GPS位置情報も取得する

こうした接触追跡アプリの主目的は、感染者と接触した可能性をユーザーに通知して注意を促し、感染拡大を封じ込めることにある。ユーザーは自身の行動に基づき、感染者との濃厚接触、周辺地域の感染状況について把握することが可能となる。感染が拡大している状況下はもちろん、一段落した後も第2波、第3波を防ぐ上で大いに役立つに違いない。

また、「Aarogya Setu」は他にも様々な役割を担っている。感染状況、予防措置等の各種情報をユーザーに届けるとともに、ユーザーは政府が新型コロナ救済基金として設立した「PM Cares Fund」にアプリを介して寄付もできる。“e-pass”(電子通行証)として活用し、感染の危険にさらされていない人のみに外出・入店許可を与えたり、公共交通機関の利用を認めたりする等、別の活用方法も検討されている状況だ。

「Aarogya Setu」は英語やヒンディー語のほか、9つの地域言語に対応している
 
使用の義務付け&高まるプライバシー侵害の懸念

一方でインドは多様な文化、脆弱な医療制度、深刻な貧富格差、13億の巨大な人口等、感染拡大防止の観点では多くの難題を抱えており、「Aarogya Setu」がどれほど優れたツールであったとしても、感染拡大を根本的に食い止めることは困難という見方もある。少なくとも国民の半数程度が利用するような状況をつくらないと、その真価は発揮されないかもしれない。

政府もその点は十分理解しており、5月1日に2週間のロックダウンの延長(5月4日〜17日)を決定したタイミングで、「Aarogya Setu」の使用義務を公務員だけでなく、民間企業の従業員にも拡大させた。また、各自治体には感染拡大の危険性が高い封鎖エリアの住民全員に使用を徹底させるよう要請している。今後同国で発売されるすべてのスマートフォンへのプリインストール、フィーチャーフォンやベーシックフォンへの対応を政府が検討している、という報道もある。

しかし、政府が「Aarogya Setu」の使用義務を拡大させたことで、プライバシー侵害やセキュリティを懸念する声が高まった側面もある。「Aarogya Setu」の利用を拒む人々や政府の決定に異議を唱える団体は一定数おり、インド最大野党・国民会議派のラフル・ガンジー元総裁も自身のTwitterで「高度な監視システム」と批判している。こうした人々や団体が今後どのような行動に出るか様子を見る必要はあるだろう。

ラフル氏の意見には賛否両論が出ている。画像は同氏のTwitterより

一部の人々が「Aarogya Setu」に批判的な態度を示す理由には、2009年に導入された日本のマイナンバーにあたる「Aadhaa(アダール)」も関係している。日本では画期的な取組みとして紹介されることが多いアダールだが、インドではいまだ賛否両論があるのも事実だ。アダールは「任意登録」であるにも関わらず、税金申告や銀行口座の開設等、ありとあらゆるシーンでアダールが求められる仕組みづくりが推進され、結果として登録・利用しなければ生活に支障をきたすまでになってしまった。「Aarogya Setu」も利用シーンが徐々に拡大され、気付けば本来の用途とは異なるシーンで活用されているーーそんな状況が絶対に生まれないとは言い切れないだろう。

何はともあれ、現時点では新型コロナの感染拡大を防止することが一番重要なミッションであることに変わりはない。政府は難しい舵取りを迫られているが、これまで幾多の難局を乗り越えてきたモディ首相のリーダーシップに期待したい。

written by 飯塚竜二

関連リンク
https://www.mygov.in/aarogya-setu-app/

https://www.news18.com/news/opinion/aarogya-setu-bridging-health-well-being-as-india-battles-coronavirus-2585051.html

https://www.hindustantimes.com/tech/aarogya-setu-5-things-you-can-do-on-this-contact-tracing-app/story-YW1posomaVFxKqLtk8bvNK.html

https://www.livemint.com/technology/apps/govt-s-aarogya-setu-app-to-be-installed-on-smartphones-by-default-soon-11588170539557.html

https://www.rediff.com/news/report/coronavirus-in-india-aarogya-setu-tops-charts-with-75-million-downloads/20200425.htm

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