「データは新しい石油」、インド政府の20年度予算案は農業・インフラ・ITに重点

インド政府の2020年度予算案が2月1日に発表された。ニルマラ・シタラマン財務相は過去最長となった予算案演説で、低迷する消費や経済対策として「中間所得層への減税、農業、インフラ(運輸等のロジスティクス)、IT・通信分野(データセンター開設等)」に重点を入れる姿勢を打ち出した。

20年度予算案の歳出総額は前年度比13%増の30兆4223億ルピー(約46兆7616億円)となった。この内、農業分野へは28%増の約1兆5000億ルピー(約2兆3073億円)、インフラ分野へは7%増の1兆6000億ルピー(約2兆4611憶円)、IT・通信分野へは3.7倍となる5900億ルピー(約9074億円)となった。

「中間所得層への減税」は“消費より貯蓄に向かう”と見られ、効果は限定的と捉えられている。今回の予算案は市場からは「消費刺激対策としては特に目玉がない」という意見が多い一方で、「農業、ロジスティクス、IT分野に絞った予算案は、小さな一歩(baby steps)だが、スタートアップにとっては長期的にはプラスの効果をもたらす」とも受けとめられている。

左から農業、教育、医療、農村開発、福祉、物流インフラ、都市開発。インド財務省HPより転載

 

景気対策の足を引っ張るインフレ、上期以降は一服する可能性

インド経済は昨年から、ノンバンクの経営破綻による貸し渋り、GST(消費税)導入、農作物の不作によるインフレ(流動性鈍化)、強引とも言える急速なEV化政策による自動車関連産業の混乱等で成長率が7%台から5%台にまで落ち込み、景気悪化が懸念されてきた。

こうした中、中央銀行に当たるインド準備銀行は諸外国同様、景気対策として積極的に利下げ政策をとっており、物価は元々インフレ傾向にある。しかし、20年1月の消費者物価指数(CPI)は19年11月の5.54%から7.59%へと急上昇し、消費低迷の要因の一つとなっている。

主な要因は、昨年の異常気象による農作物の不作や原油・通信費の高騰だ。特に食品価格の値上がりは大きく、インド料理に欠かせないタマネギを含む野菜のインフレ率は12月時点で前月比60.5%を記録した。(20年1月は50.2%)

インフレ率の推移。米経済データベース「Trading Economics」より転載

インド準備銀行は2月6日、政策金利を5.15%に据え置き、19年度4Qのインフレターゲットを6.5%に上方修正、20年度3Qまでに3.2%のインフレ率を目指す声明を出した(中期目標は4%)。上期以降のマイルドなインフレ率設定の背景には、農作物は季節的な要因が大きく、今後インフレ一服感の可能性がある。石油価格もイラン情勢の鎮静化やコロナウイルスの影響で下落基調にあることも挙げられる。

 

物流インフラ整備で貿易大国を目指す

ナレンドラ・モディ政権は従来よりインフラ整備ー特に道路・鉄道・湾岸等の物流インフラ整備に重点を入れており、昨年の予算案では“5年間で100兆ルピーを投資する”構想を打ち出す等、官民挙げて積極的に取り組んでいる。

物流インフラ整備は農業、産業、Eコマース等、広範囲に経済成長を促す。特に果物や野菜、冷凍食品等の低温輸送インフラ整備は農業にも大きな恩恵をもたらすことが期待されている。

また、シタラマン財務相は予算案の中で、「国家物流政策」の草案(※)に言及し、ロジスティクス分野のスタートアップはそのテクノロジーを活用して、ワンストップで輸出入手続きが可能な(シングルウインドウ化)「E-ロジスティクス・マーケットプレイス」構想に参加することを促した。

※ 昨年政府が発表したもので、インド全土でのシームレスな物流促進や物流コスト削減、雇用創出、中小企業の競争力を高めることで、貿易大国を目指す政策草案(the National Logistics Policy)

 

「データは新しい石油」

IT分野に関して、シタラマン財務相は「“データは新しい石油(Data is the new oil)”は今や決まり文句だ。データ分析、AI、フィンテック、IoT等のテクノロジーは生活に浸透し、生活をシンプルで快適なものに変えつつある。 こうした革新技術はまた、世界の経済秩序を書き換え、政府はより多くの国民へ利益をもたらし、金融包摂を可能にした」と述べ、革新技術のさらなる成長のために、民間企業の「データセンターパーク」開設を後押しする計画を打ち出した。

「データセンターパーク」により、企業は効果的に情報の収集・分析が可能になり、バリューチェーン(事業活動)を高めることが期待される。反面、土地取得等の不動産面での課題や不安定な電力、脆弱な広域通信ネットワーク(WAN)の克服が指摘されている。

IT分野ではこの他、11億ドル(約1200億円)規模の投資を高速計算を可能にする量子コンピュータ開発に投下する構想等も発表された。

 

地政学的優位性、トランプ大統領の訪印

今回の予算案は景気が一気に上向くカンフル剤ではないが、13億人の人口ボーナス、巨大な未開拓市場というシンプルな事実だけでも、インド経済の成長伸びしろはまだまだ大きい。その証左として、「Amazon」等の巨大外資はインドへの本格的なコミットを打ち出している。

また、インドはアラビア海を挟んで消費が活発なアラビア半島、アフリカ大陸に面しており、ベンガル湾を挟んではインド同様に伸びしろが大きい東南アジア諸国にも面している。「海の道」としての要衝に位置するインドの地政学的優位性は極めて大きい。

さらに米中貿易戦争、新型コロナウイルス等の影響で、中国からのサプライチェーン移転(資本の引き上げ)が今後も増加すれば、物流インフラに力を入れるインドにとっても大きな好機となるはずだ。加えて今月24日に予定されている米トランプ大統領のインド初訪問が両国の通商面にどのような結果をもたらすのか、こちらも重要な判断材料になり得るかもしれない。

written by Makoto N

関連リンク
https://www.indiabudget.gov.in/budgetglance.php

https://tech.economictimes.indiatimes.com/news/startups/startups-find-this-years-budget-underwhelming/73878903

https://tech.economictimes.indiatimes.com/news/startups/startups-may-get-boost-from-govts-national-logistics-policy/73847090

https://inc42.com/buzz/union-budget-2020-govt-to-roll-out-policy-for-private-data-centres/

https://www.businesstoday.in/current/economy-politics/rbi-monetary-policy-revises-cpi-inflation-target-q4-to-65/story/395581.html

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