ユニコーン&スニコーンを多数輩出するバンガロールのスタートアップ・エコシステム
|インド南部カルナータカ州の州都バンガロール(ベンガルール)は長年にわたり、インディアン・スタートアップの中心地として認識されてきた。資金調達環境を含むエコシステムがインドの他都市と比べて成熟しており、現在インドに存在する32社のユニコーンの内、バンガロールの企業は約半数となる14社を占めている。片やデリー首都圏は9社、ムンバイは5社だ。

VCの「Accel」や「3one4 Capital」、カルナータカ州政府等が作成したレポート「Bengaluru Innovation Report 2019」は、「バンガロールは(ユニコーン予備軍である)スニコーンの成長スピードがデリーやムンバイよりも早い」と報告している。インドには2019年時点で約150のスニコーンが存在しているが、内43%の64社がバンガロールを拠点としており、デリー(23%)とムンバイ(19%)を大きく上回っている。また、スタートアップがスニコーンに成長するまでに要した期間の中央値も、バンガロールが4年であるのに対し、デリーは5年、ムンバイは7年とやや長い。

バンガロールを拠点とするユニコーンの代表としては、2018年に米小売大手「ウォルマート」に買収されたEC大手「Flipkart」をはじめ、配車サービス「Ola」、フードデリバリー「Swiggy」、オンライン食料品取引プラットフォーム「BigBasket」、エドテック「Byju’s」、B2B取引プラットフォーム「Udaan」等が挙げられる。また、同じくバンガロールを拠点とするスニコーンには、オンライン決済サービス「Razorpay」、ソーシャルコマース「Meesho」、アグリテック「NinjaCart」、グロサリーデリバリー「Dunzo」、オンラインレンタカー「Zoomcar」、バイクタクシー「Rapido」、食肉&シーフードデリバリー「Licious」、医療サービス「Practo」等があり、これらの企業は今年もしくは来年のユニコーン入りが期待されている。
スタートアップの成長スピードは、当該都市のエコシステムの成熟度、ユニコーンや大企業の数に大きく影響される。ユニコーンや大企業の数が多ければ多いほど、それだけ資金や人材が集まりやすく、投資家の関心をも惹きつける。バンガロールのスタートアップは過去10年間で計310億ドル(約3.4兆円)を調達したが、この額はインドのスタートアップが同期間中に調達した全資金の45%に相当する。
また、バンガロールを拠点とするユニコーンはこれまでにインド全土で2100名以上の起業家を生み出したと言われているが、彼・彼女らの半数以上は起業の拠点としてバンガロールを選択した。資金調達には人間関係もとても重要で、起業するにあたり、すでにネットワークや市場環境を把握しているバンガロールのほうがふさわしい、という心理が働いたのだろう。

米国人で、バンガロールを拠点とするスニコーン「Zoomcar」の共同創業者兼CEOのGreg Moran氏は「(バンガロールは)創業者、エンジニア、デザイナー等、多様なネットワークにアクセスできる都市だ」とし、「バンガロールは新しいアイディアと創造性の最前線にある。結局、偉大なスタートアップとは素晴らしい人々のことであり、確かにバンガロールはそのことが現実になるようバックアップしてくれている。インドのテクノロジー・エコシステムには、これ以上最適な場所はない」とその魅力についてコメントしている。
多くの学生がバンガロールを目指す理由
バンガロールのあるカルナータカ州には、多数の工科大学が存在している点も無視できない要素だ。加えてインドにあるR&Dセンター内、約4割がバンガロールに集中していることから、多くの学生は卒業後の進路を見据え、バンガロールで学ぶことを優先する傾向がある。バンガロールに移住する移民人口の内、高いITスキルを有する人材の割合が比較的高いのはそのためだ。このように、優秀な人材が絶えず増加している環境もバンガロールのスタートアップの成長スピードを加速させる要因となっている。

また、投資家も自身もしくは別の者の成功体験を反復する傾向があり、一度バンガロールの企業に投資して成功すると、なかなかその都市の魅力から逃れられないものだ。東京を拠点としているVCが、日本の地方都市のスタートアップにそれほど詳しくないように、情報の発信や流れという観点から見ても都市を絞ったほうが投資効率は断然良くなる。見方を変えれば、投資家も気付かないうちに当該都市のエコシステムの“重要な歯車”になっている、とも言えるかもしれない。
スタートアップ・エコシステムの構築には政府による強力なバックアップも不可欠で、かつ一朝一夕で構築できるものではなく、長い年月をかけて熟成させてこそ質が高まるものだ。インドや外国の他都市がバンガロールを見本とし、同じような成長モデルを模索したとしても、人口規模や街の成り立ちも含め、そうたやすく真似できるものではないという現実は理解しておくべきかもしれない。少なくともバンガロールのように産学官連携プラットフォームを効果的に機能させなければ、実現は困難だろう。
written by 飯塚竜二
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