「RCEP」不参加を決めたインド、懸念は巨大な対中貿易赤字と不公平な市場アクセス

2019年11月4日にタイ・バンコクで開催された自由貿易圏構想「東アジア地域包括的経済連携(RCEP、アールセップ)」首脳会合後の記者会見で、インド政府は同構想からの撤退を表明した。インドはかねてから中国製品の大量流入を懸念しており、自国の農業や製造業の保護を念頭に不参加を決めたようだ。

「RCEP」は東南アジア諸国連合加盟10ヵ国に、日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランドの6ヵ国を含めた計16ヵ国での年内妥結を目指してきた。2005年から中国が提案してきた「東アジア自由貿易圏構想」(ASEAN+日本、中国、韓国)、2007年から日本が提案してきた「東アジア包括的経済連携構想」(ASEAN+日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド)という2つの構想を包含した貿易圏構想で、ASEANが2012年に交渉立ち上げを宣言し、これまで幾度となく会合が催されてきた。「RCEP」が成立すれば、世界人口の約半分、世界のGDPおよび貿易総額の約3割を占める最大級の自由貿易圏が誕生するはずであった。

そうした中、インド外務省のビジェイ・タクール・シン氏は記者団に対し、「インドがRCEPに参加しない決定を伝えた」と明らかにし、首脳会合に出席したインドのナレンドラ・モディ首相も同貿易協定におけるインドが抱える懸念を払拭できず、(インドの)中核的利益に妥協はできない、と判断したという。実際に別の政府関係者も「(会合の)結果は公平ではなかった」と不満を述べている。

「RCEP」では、インドは中国、豪州、ニュージーランドから輸入される品目の74%、日本、韓国、ASEANから輸入される品目の90%の関税を撤廃することが求められている。経済成長が減速する中、インドは安価な中国産品が大量に流入することを特に恐れており、業界関係者等からは「インドの製造業や生産部門を殺しかねない」と妥結に反対する声が強まっていた。また、インドの強みであるサービス貿易が、「RCEP」では恩恵を受けにくいという点もインドが二の足を踏む理由のひとつとなっている。

インドの「RCEP」参加が不透明になった今、気になるのは他でもない日本の今後の対応だ。梶山経済産業相は5日の記者会見で「我が国はインドを含む16ヵ国での早期妥結と、2020年中の署名に向けて引き続き主導的な役割を果たす」と述べ、引き続きインドに働きかけていく姿勢を見せたが、インドと中国という2つの大国の間を取り成す作業はそれほど簡単ではない。特に日本は「RCEP」における中国への対抗馬としてインドを据えてきた節があり、仮にインドが離脱するとなると中国の存在感をさらに高めることになる。

11月4日に開催された日印首脳会談の様子。画像はモディ首相のTwitterより

インドの対中貿易赤字は2017年の510億ドル(約5兆5000億円)から2018年は570億ドル(約6兆2000億円)まで拡大しており、コストパフォーマンスに優れた中国製品は価格にシビアなインド人の心をすでに掴んでいる。こうした状況を受け、インド政府は中国政府に対して不平等な市場アクセスを改善するよう度々訴えてきたが(※)、今回のインド政府の決定から判断するに、両国の溝は最後まで埋まらなかったということになる。

※ 本会合開催前の10月23日には、中国国家発展改革委員会が「平等な市場アクセスを保証し、市場の公正な競争を保護する」という新ルールを来年1月1日付で施行する旨を発表している

いずれにせよ、このままインドの離脱が正式決定となった場合、巨大なインド市場の開放という「RCEP」の最大のメリットのひとつが消滅してしまう。米中貿易摩擦、米国の保護主義化、世界経済の減速等、様々な不安事項が山積する中、“最大級の自由貿易圏”はこの困難を乗り越えられるだろうか。

written by 飯塚竜二

関連リンク
https://www.news18.com/news/business/india-decides-not-to-join-worlds-largest-free-trade-agreement-rcep-says-cant-compromise-core-interests-2373555.html

https://www.business-standard.com/article/pti-stories/rcep-jaishankar-says-india-concerned-over-enormous-trade-deficit-with-china-119090900913_1.html

https://www.cnbc.com/2019/11/05/india-says-no-to-joining-the-rcep-pact-involving-major-asian-economies.html

2019年〜2035年
世界でGDPが最も急成長する都市3位
バンガロール視察ツアー毎月開催中!

バンガロール視察ツアー