医師不足が深刻のインドで注目される「ヘルスATM」
|米国の疾病動態経済政策センター(CDDEP)によると、インドでは医療費の65%が自己負担であり、毎年およそ5700万人が高額な医療費の支払いにより貧困に陥っている。また、医師は約60万人、看護師は200万人不足している状況だ。こうした医療アクセスの解決策として、インドでは最近「ヘルスATM」が注目を集め始めている。
インド農村部等の遠隔地域における診療所や医師の不足は深刻で、医師1人当たりに対する患者の比率は1:10189。WHOが定める比率は1:1000で、約10倍という大きな開きがある。
こうした深刻な課題に対して、政府は2024年までにWHO基準を目指し、新たに2500の病院の開設計画や人材育成に努めているが、政府系シンクタンク「NITI Aayog」は「専門医の増員はハード面でのインフラ整備より5倍難しい」と分析している。
また、政府は医療ツーリズムを積極的に推し進めており、欧米で研修を済ませた優秀な医師は海外からの患者や富裕層が利用する待遇面の良い私立病院に勤務する傾向が強い。中間層や貧困層にとってこうした医療サービスやアクセスギャップは大きな問題となっている。
ウォークインで医療サービスを提供する「ヘルスATM」
医師不足や医療インフラが貧弱な遠隔地でも低価格で、迅速に検査や専門的な診断が受けられるデバイスとして、「Essar Foundation」(※)が2016年にインドで初めて「ヘルスATM」を農村に設置した。また、同様のサービスを提供するスタートアップとしてムンバイを拠点とする「YOLO」が挙げられる。
※コングロマリット「Essar Group」のCSRを担う財団
「ヘルスATM」には様々なタイプが存在しているが、感染症や神経器官、肺機能等の40種類以上の検査を受けられる基本的な機能を備えたものから、医療スタッフ付きの救急医療設備も備えるウォークイン医療キオスクまである。「ヘルスATM」は、高解像度のビデオカメラを通して医師に相談も出来、診断後にアプリケーション等を介して継続的な医療サービスが受けられるのも特長だ。
同ATMは銀行のATMと同じ仕組みで、各ATMからの診断情報を設置元の企業や提携病院の中央システムに集約し、患者の病状や治療方法を医師に事前に提供することで、患者の待ち時間を減らし、医師や看護師の負担軽減につなげている。
増加する生活習慣病予防に「ヘルスATM」が中心的役割を担う
近年の経済成長により、インドでは食習慣や生活習慣にも変化が起き、糖尿病や高血圧、脳卒中等の生活習慣病(非感染性疾患)の疾患リスクが増加している。

「ヘルスATM」は特に生活習慣病が増加しているインドで疾患前の早期発見のスクリーニング・デバイスとして中心的な役割を担うことが期待されており、ニューデリー市議会は2019年1月、市内の国立病院に「ヘルスATM」を設置するプロジェクトを試験的に立ち上げている。
高まる健康意識に支えられ、インドでは「ヘルスATM」以外にもWEBやモバイルを通して予防医学や生活習慣改善といったヘルス&ウェルネスサービスを提供するスタートアップが劇的に増えることが予想されており、彼らのサービスは今後既存の小規模クリニックを代替する地域のプライマリ・ヘルス・ケアのタッチポイントになるかもしれない。
written by Makoto N
関連リンク
https://www.essar.com/health-atm-a-unique-digital-healthcare-initiative-at-dantewada/