急成長するインドのフィンテック、その背景と課題

近年、インドで多様なスタートアップが急成長してきた背景には、同国でのフィンテック・エコシテムの浸透・成熟がある。EC大手「Flipkart」、フードデリバリー・ユニコーンの「Zomato」「Swiggy」の成功も、電子決済等のフィンテック、関連するインフラが無ければ成し得なかったと言えるだろう。

「INDIA FINTECH REPORT 2019」によると、インドのフィンテック・スタートアップの数は今や米国に次ぐ世界第2位の規模になり(この統計には中国は入っていない)、2014年から2018年にかけて投資や技術、サービス面で大きく飛躍した。投資面では、2014年で1.64億ドル(約178億円)、2018年には8.67倍の14.2億ドル(約1543億円)に達している。また、スタートアップの数では、2014年で約737社、2019年7月時点では約2707社に増加している。

セクター別に見ると、日本の「PayPay」に技術提供している「Paytm」に代表される電子決済分野でのフィンテックが大きな牽引役となっており、保険、融資(消費者金融)を含むこれら3セクターが2018年までの4年間での投資総額(約7573億円)の85.7%を占める。また、フィンテック・スタートアップの拠点はバンガロールが432社、ムンバイが428社と、この2都市でインドのフィンテックの48%以上を占めている。

今後の主流は 「Lending Tech」

従来の金融機関では、中小企業や零細商店(キラナ)、個人向け融資は与信リスクから全体の25~40%しか審査に通らず、借り手は審査のために膨大な書類を用意する必要があった。

「Lending Tech」(消費者金融)分野でのフィンテックは、借り手の実績や職業、取引記録等、様々なソーシャルデータを電子化することで与信審査のハードルを下げ、迅速に融資を受けやすくしている。「Lending Tech」の需要は、今後特に小売分野で大きく伸びることが見込まれている。

現在、インドの小売市場の90%を占める零細商店の市場規模は7000億ドル(約77兆円)に達しており、2020年には1兆ドル(約120兆円)を超えると予測されている。

また、モバイル・ブロードバンド接続スピードが世界平均と比べて50%以上遅いと指摘されているインドのネット接続環境だが、2020年までの「5G」導入によって改善されることが期待されており、フィンテックの成長に拍車がかかるものと思われる。

フィンテック急成長の背景

インドでフィンテックが急成長している背景には、官民一体の取組みが挙げられる。2010年に導入された日本のマイナンバーにあたる「アダール/アドハー(Aadhaar)」(※)、国民識別番号制度の普及がフィンテックの成長要因の基礎となっている。「アダール」は指紋や虹彩による生体認証、発行される12桁の番号により、“極めて信用度が高いデジタルID”として幅広く活用されており、携帯電話の契約、銀行口座、決済、医療、保険等といった様々な生活インフラと包括的に結び付けられている。

※「Aadhaar」はヒンドゥー語で「基礎」の意味。NECが大規模生体認証システムを提供。

また、2014年からナレンドラ・モディ首相が推進している「PMJDY(金融包摂プログラム)」は国民に金融サービスへのアクセスを促し、多くの国民が銀行口座を持つに至った(※1)。さらに、2016年の高額紙幣廃止によるキャッシュレス化、「アダール」と連動したモバイル決済統一インターフェース「UPI(※2)」の導入は、フィンテック侵透の要因になった。こうした行政の取組みに加え、低価格でモバイルサービスを提供し、多くの国民にネットアクセスを可能にさせた「Reliance Jio」の出現も大きい。

※1 1週間で1800万の銀行口座が開設され、ギネス記録となった。

※2「Unified Payments Interface」の略。インド決済公社によって開発され、中央銀行であるインド準備銀行(RBI)が後ろ盾になり、銀行口座と連動したモバイルアプリで簡単に決済できるシステム。

フィンテックの需要と供給のギャップ

一方でインドのフィンテックの多様なサービスは、“デジタルに精通した都市部の人々”のみが利用し、農村部ではフィンテックの有用性が認識されず、金融サービスにおける“格差”が大きな問題として指摘されている。元々、農村部では金融機関の支店やATM等のハード面でのインフラが極度に未整備で、金融アクセスが困難なためだ。

世界銀行の調査によると、2017年時点で農村部での電子決済利用率は2%のみで、デビットカード保有率は26%にとどまっている。オンライン決済およびデビットカード決済はフィンテックの基本的用途であり、これら決済の利用率の低さは農村部におけるフィンテックの浸透率がいかに低いかを如実に表すものだ。さらに、女性の銀行口座の内42%が休眠口座(男性は35%)であり、女性の社会進出・経済参加の遅れとも複雑に絡んだ性別による金融サービス格差も問題化している。

こうした課題を解決するためには、フィンテックの「安い、早い、簡単で安全」という有用性や様々なサービス価値を国民に理解してもらうことが重要であり、中でも農村部における「金融リテラシー」の向上をどう促してゆくかが、インドのフィンテック・エコシステムの今後の発展を大きく左右するものと思われる。

written by Makoto N

関連リンク
https://inc42.com/datalab/urban-rural-divide-poor-financial-inclusion-the-biggest-hurdles-for-fintech-adoption-in-india/

https://yourstory.com/2019/03/india-second-biggest-fintech-hub-ld0slui9fn

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