「日印スタートアップ・ハブ」初の拠点にバンガロールが選ばれた理由

経済産業省とインド商工省の共同声明「日印スタートアップ・イニシアチブ」(2018年5月1日)で初めて設立が明らかにされた「日印スタートアップ・ハブ」。両国のスタートアップ・エコシステムのギャップを埋め、共同イノベーションの促進、有意義なシナジー効果の実現を目的に発足したオンライン・プラットフォームだが、2019年6月26日、その発足を記念したイベント「日印スタートアップ・ハブ連携セミナー」が「日本貿易振興機構(JETRO)」主催で開催された。

セミナーには日系スタートアップ・企業関係者約70名が出席。JETROバンガロール事務所の遠藤豊氏、日系VC「Incubate Fund India」の村上矢氏、「Axilor Ventures」のPrachi Sinha氏が登壇し、バンガロール最新事情から同地のスタートアップ・エコシステム、バイオ・ヘルスケア業界の動向に至るまで、幅広いテーマについて話が進められた。

「日印スタートアップ・ハブ」事務局はJETROバンガロール事務所内に設けられるため、基本的には同事務所がサービス拠点となる。事前予約は必要だが、インド展開を図る日系スタートアップ向けにバンガロール在住メンターによる各種アドバイス、事業提携候補先の紹介、(外部の)コワーキングスペース等のサービスを提供していく方針だ。

遠藤豊氏(左上)、村上矢氏(左下)、Prachi Sinha氏
なぜバンガロールが選ばれたのか?

そもそも、なぜ「日印スタートアップ・ハブ」最初の拠点が日系企業、在留邦人が圧倒的に多いデリーNCR(首都圏)ではなく、バンガロールとなったのか。

もちろん、バンガロールはインドのスタートアップ・エコシステムをリードする都市であり、増加の勢いは下降傾向にあるものの毎年多くのスタートアップが誕生している。優秀なIT人材も集積しており、多くの欧米企業はバンガロールにR&D拠点を構えることでイノベーションを活性化させ、競争優位性をうまく確保していると言えるだろう。

しかしながら日本に限定すれば、いまだ日本からバンガロールへの直行便はなく(2020年夏期ダイヤにJALが就航予定)、日本人コミュニティも小さい(※)。インドに慣れ親しんだ日本人であれば快適な生活環境と言えるが、初めてのインドがバンガロールというのは、スタートアップ・エコシステム云々以前に少々敷居が高い印象を受ける。

※商工会の日系企業数はデリーが427社であるのに対し、バンガロールは154社。日本人会の会員数はデリーが2063名であるのに対し、バンガロールは942名。2018年11月時点

この点について遠藤氏は、①スタートアップ・エコシステム自体の大きさおよび幅の広さ(様々な領域のスタートアップが集積)、②グローバル企業の集積地であること、③軍事産業・重工業の集積地として発展した経緯からバンガロールには付加価値の高い製造業が多いこと、④欧米志向が強い北部と比べ、南部は比較的ニュートラルであること等を挙げ、スイスやドイツ、イスラエル等といった国々がバンガロールのスタートアップの奪い合いを繰り広げている現状を紹介した。つまり、「日印スタートアップ・ハブ」は日系スタートアップをバンガロールのスタートアップ・エコシステムに取り込むことで、資金力のある欧米大手との提携、より高度なソフトウェアの開発、高度IT人材の採用等を通じて、世界における日本および日本のスタートアップのプレゼンスを高めていく狙いもあるようだ。

一方で村上氏は「極論、ビジネス面だけで考えるとデリー・グルガオンでもバンガロールでもどちらでもいい」としつつ、「エコシステム自体は明らかにバンガロールのほうが成熟している」と述べ、「高度エンジニア人材の採用もバンガロールのほうが圧倒的にしやすいし、スタートアップを始めるという意味でも(デリー・グルガオンよりも)土壌が一段上」と断言した。

また、自身がデリーからバンガロールに拠点を移した経験から「生活面でもバンガロールのほうが快適です。バンガロールは気候的にエアコンがいらない都市で、デリーは夏50度ぐらいになりますし(ここ数年猛暑は過酷化している)、冬はダウンジャケットが必要な寒さ。大気汚染度も北京よりも高い」と述べ、外国人にはバンガロールの方が暮らしやすいことを強調した。

ハードウェア系スタートアップの可能性は?

日系スタートアップがインドを活用する上で気になることがもう1点ある。これはバンガロールだけでなく、インド全体にも当てはまることだが、ハードウェア系スタートアップにチャンスがあるのかどうかということだ。

インドのスタートアップと言えば、割合的には圧倒的にソフトウェア、情報処理系が多く、中国・深センのように製造エコシステムが成熟しているわけでもない。そのため、プロトタイプ作成、その先の量産体制の構築を考えるとハードウェア系は難しいのではなかろうか。

中国のスマホメーカー「シャオミ(小米科技)」がインドで生産しているモバイルバッテリー

この点について前出の村上氏は「可能性は十分あると思います。(ハードウェア系スタートアップは)徐々に出始めていますし、日系企業や、意外と目立たない会社がバンガロールにきちんとしたアセンブリ・ラインを構築したりもしています。まだまだ“モノづくり”は相対的に弱いんですが、逆に言えば日本の技術や経験が活きるとも思うし、人件費も安いので、そこを活用して安いコストで生産して売っていくことはできるはずです」と主張した。

実際にインド政府は2014年9月に「Make in India(メイク・イン・インディア)」という国家政策を発表し、国内製造業の変革、世界の魅力的な製造ハブ作りに向けたインフラ整備・財務支援等を行い、製造業のインド進出を後押ししている。また、輸入関税の引き上げ、国産品優遇措置等で海外企業に現地生産化を促している状況だ。

海外企業の立場からすれば、「Make in India」は負の側面も併せ持っており、不確定要素も多いが、少なくともインド国内の製造業が活性化しているのは事実。巨大なマーケットを有し、7%前後の経済成長率を維持している今、「インド=ハードウェア系スタートアップにチャンスがない」と結論付けるのは時期尚早だろう。

written by 飯塚竜二

関連リンク
https://www.startupindia.gov.in/japanhub

インドのスタートアップイベント「TECHSPARKS 2019」
JETROが参加日系スタートアップ募集中

JETROは「日印スタートアップ・ハブ」プロジェクトの一環として来たる9月20日・21日にバンガロールで開催されるスタートアップイベント「TECHSPARKS 2019」に参加する日系スタートアップを募集している。

同イベントは今年で10回目の開催となる民間主催のスタートアップカンファレンス。来場者数3500人超の有料イベント(参加者パスは2万円以上)だ。インド国内大手企業はもちろん、「Google」や「Dell」等の米IT大手企業、ドイツ、スウェーデン等各国政府機関がスポンサーとして支援している。著名な投資家や成功したスタートアップ経営者等を招き、最新の技術動向や今後のトレンド等についてパネルディスカッション、セミナーが行われる。中でも選抜されたスタートアップ30社による高度なピッチは同イベントの目玉プログラムだ。

インドに挑戦してみようという気概があるスタートアップはぜひ応募してほしい。詳細はJETROのFacebookページを確認

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