急成長するインドの宇宙開発、スペーステック・スタートアップの増加に期待
|近年、インド政府の積極な宇宙開発に伴い、宇宙関連技術のスタートアップが増加しつつある。バンガロールに拠点を置く「Bellatrix Aerospace」もそんなスペーステック・スタートアップの一つだ。
「Bellatrix Aerospace」はバンガロールの「インド理科大学院( IISc)」のインキュベートにより、2015年に同院内で創業。創業者は20代のYashas Karanam氏とRohan Ganapathy氏だ。会社名の「Bellatrix Aerospace」はオリオン座ガンマ星の別名「ベラトリックス」(ラテン語で女戦士の意味)に由来しているという。
同社は低軌道上の衛星・ロケットの先進的な推進システムの開発、宇宙へのアクセスをより容易にするための低コスト化を目指している。特に同社が力を入れているのが、電気やクリーン燃料を利用した衛星・ロケットの推移システム(スラスター)開発だ。
「Bellatrix Aerospace」は、2019年6月21日にプレシリーズAで300万ドル(約3億円)の資金調達に成功、評価額は1000万ドル(約10億円)に達した。主要VCはシードファンド専門の「IDFC-Parampara Fund」(本社:ムンバイ)。他に大手オートバイメーカー「Hero MotoCorp」(本社:ニューデリー)の経営者一族であるSuman Kant Munjal氏、ボリウッド女優のDeepika Padukone氏等が出資した。
今回調達した資金で「Bellatrix Aerospace」はスタッフ(現在は14名)をさらに増員する予定で、スラスター開発に力を注ぐとしている。
グローバルで過熱する宇宙開発
サイバー空間、宇宙空間での覇権争いが世界的に激化しており、特に宇宙空間でのプレゼンスは安全保障や通信等の技術革新、経済発展の面で国家の命運を左右するほどの重要性を持ち始めている。
2017‐2018年のインドの宇宙開発予算は約1418億円、日本の開発予算約3500億円の半分以下の規模だが、衛星や月探査機の打上げ、有人宇宙飛行計画、宇宙ステーション計画等、近年、積極的に宇宙開発に取り組んでいる。
インドの宇宙産業は政府、特にバンガロールに拠点を置くインド宇宙研究機関(ISRO:Indian Space Research Organization)が主体で、これまでは政府の独壇場だった。民間企業のスペーステックは2010年創業の「TeamIndus」(バンガロール)や2018年創業の「Kawa Space」(ムンバイ)等、現状では少ない。
官民挙げての宇宙開発
一方で政府主導だった宇宙開発技術は、スペーステック・スタートアップの起業を後押ししている。これまでに培ってきた宇宙開発技術や才能、野心は、民間の宇宙開発関連企業が活躍できる新たな市場の基礎となる大きな潜在的可能性を秘めたプラットフォームでもあるからだ。
インド政府は今後、宇宙開発への参入障壁となっていた規制を民間企業向けに緩和する方針だ。ナレンドラ・モディ首相自身も、今年議会を通過する予定の宇宙開発法案の草案に民間も含めた幅広いステークホルダーからの提案を募っており、グローバル競争を見据えた官民挙げての宇宙開発市場の拡大が予想される。
水を推進剤にしたスラスターが宇宙開発の鍵となるか
「Bellatrix Aerospace」の最初のクライアントは「ISRO」で、同社は「ISRO」の指導を受けながら水を推進剤にしたスラスター(※)を開発する予定だ。水ベースの推進システムはより無害で軽量化に繋がり、低コストで衛星のペイロードを増やすことが出来る。これからのスラスター技術開発では、同推進システムが主流になる可能性があり、各国が開発に注力している状況だ。
※水を推進剤にしたスラスター技術は、2019年6月14日、世界で初めて東京大学大学院新領域創成科学研究科が開発を成功させている。
同社は2020年の終わりにはシリーズAから脱し、海外VCからも広く資金調達した上で米国やEUでのグローバル展開を目指すとしている。
今後、インドの宇宙開発市場は、海外VCや世界中の宇宙開発関連企業から注目されるのは必至で、並行して多くのスペーステック・スタートアップも誕生することになるだろう。
written by Makoto N
https://spacenews.com/indian-startup-bellatrix-aerospace-raises-3-million/