人工知能「AI」で変わるインドの医療

AIは今や自動運転、ドローン、Eコマース、スマートホーム等、その用途は様々な分野で拡大している。中でも医療分野でのAI活用は、インドを含め、世界中で急速に広がっていくものと思われる。

AIを活用した世界のヘルスケア市場のCAGR(年平均成長率)は、2018年から2025年までの7年間で50.2%、金額にして実に21億ドルから361億ドル(約3兆9158億円)と、17倍強まで拡大することが予測されている(※)。

※印リサーチ会社「MarketsandMarkets」調べ

インドでのヘルスケアは、貧困による病状の悪化や様々な疾病、保険や医療インフラの未熟さ、遠隔地での医療サービスの不足等が大きな課題として指摘されており、特に放射線科医の不足は深刻な状況だ。10億人以上の人口を抱えるインドでは放射線科医の数は1万人以下であり、10万人の患者に対して1人の放射線科医という悲劇的な比率となっているからだ。

放射線科医の不足は、X線・CTスキャン・MRIによる早期発見で回復が見込まれる結核等の感染症や外傷性脳損傷、癌、その他の様々な疾病への対応が後手に回り、症状が深刻化することを意味する。特にインドの結核感染者数は世界で最も多く、WHOによると2017年で274万人が罹患、毎年およそ22万人が命を落としているという。

画像診断にAI活用 低コストで高精度・早期発見

2016年にAI科学者のPooja Rao氏とインド工科大学出身のPrashant Warier氏がムンバイで創業した「Qure.ai」は、画像診断にAIを活用した画期的なヘルスケア・ソリューションを提供することで、こうしたインドの深刻な状況を改善しようと努めている。

「Qure.ai」は従来20分以上かかっていたX線・CTスキャン・MRIによる肺や脳等の画像診断にAIを活用し、所要時間を3分未満に短縮するとともに、症状の発見率95%という高精度の診断サービスを提供。同社が開発したAIは、700万以上の豊富なデータに基づいており、スタンフォード大学等の海外の医療研究機関でもその有効性が実証されている。

これまでに同社が調達した資金は3000万ドル(約32億円)に達し、すでに米国やフランス、フィリピン等、海外12ヵ国でサービスを展開、急成長を遂げている。

同社のサービスが広く普及している理由は、利用回数に応じた料金制(1~5ドル)の採用、AIアルゴリズムを走らせるハードウェア(※)を50ドルから購入できる安価な価格設定だ。さらに、高度な設備がなくてもクラウドを通じて世界中からサービスを利用できる利便性も人気の理由だ。また、AIによる診断プロセスをブラックボックス化せずに開示することで、現場の医師の信頼を勝ち取り、診断能力向上に繋がっていることも支持される理由の一つとなっている。

※Raspberry Pi(ラズベリー パイ)ハードウエア・キット 

一方、「Qure.ai」のようにAIを活用したヘルステック・スタートアップはインドではまだまだ少なく、バンガロール拠点の「SigTuple」、「NIRAMAI Health Analytix」 等、数える程度しかない。

ヘルステックでのAIの可能性は、膨大な人口から得られるビッグデータの継続的な活用によりさらに進化し、診断だけでなく従来のライフスタイルに予防医学的な面で変化を促すことになり、保険を含む様々な分野で新しいサービスが展開されることが見込まれている。

2022年にはAI分野を含むインドのヘルスケア全体の市場規模は3720億ドル(約40兆円)に達することが予測されている。他分野のスタートアップの成功例を参考にすると、こうした未開拓市場での成功のカギは、インド特有の課題を如何にローカライズできるかにあると言えよう。

written by Makoto N

関連リンク

https://inc42.com/startups/qure-ai-in-healthcare/

https://www.ibef.org/industry/healthcare-india.aspx

 

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